【塩尻あたり】一本の枝から始まった物語〜「五一わいん」代表・林幹雄さんインタビュー
こんにちは〜
ご無沙汰しておりますライターのイナバです。気がつけば夏が終わりを迎えようとしていますが、皆さんお元気でしょうか? さて今回は、イヨリ編集長からお知らせがあったように、特別編として、
鎌ケ谷船橋あたり出張企画「 塩尻あたり」!! をお届けしたいと思います。久々の登場でいきなり塩尻へ行くという予想だにしない展開が待ち受けている。それが鎌ケ谷船橋あたり!
塩尻といえば、ワインですよ。1989(平成元)年に、国際的に権威あるリュブリアーナ国際ワインコンクールで「シャトー・メルシャン信州桔梗ヶ原メルロー1985」が大金賞を受賞。以来、世界中のワイン愛好家に「SHIOJIRI」の名が知られるようになりました。
今回は、その歴史や美味しさの秘密に迫るべく、塩尻ワインの旅へといざ出発です!
世界が認めた桔梗ヶ原メルローの生みの親「五一わいん」
7時ちょうどの〜あずさ1号で〜私は私は新宿から〜たーびぃだちーますうぅ〜。ということで、塩尻駅を降りてまず向かった先は、駅から約2㎞、海抜700mの丘陵地帯「桔梗ヶ原(ききょうがはら)」と呼ばれるエリアに位置する五一わいん(林農園)さん。
塩尻でブドウ栽培が始まったのは、1890(明治23)年。なんと130年も前なんですね。その7年後、1897(明治30)年にはワイン醸造がスタートしました。当時は、ナイアガラやコンコードなどのアメリカ系品種が主だったそう。
「親父がここに農園を開いた当初は、ブドウをはじめナシやリンゴ、サクランボなどあらゆる果樹の栽培をしていたんですよ」と話すのは、五一わいん代表の林 幹雄さん。
創業者であり、幹雄さんのお父様である林 五一さんは、1911(明治44)年に桔梗ヶ原に入植。1919(大正8)年に、独学でワインの醸造を開始します。これが結構売れたそう! しかし戦争の煽りを受けて、戦後、ワイン産業は低迷。終戦から5年ほどは、日本中のワイナリーが開店休業状態だったそう。
そんな折、1951(昭和26)年に、幹雄さんと父・五一さんは大阪、山梨、山形へブドウ栽培の視察旅行へ出かけます。訪問先の一つ、山形県赤湯町にある小さな農園で、運命的な出会いを果たすのです!
「デラウェア一筋の場所だったんだけど、片隅に、一本だけメルローの木が植わっていました。結構寒い土地なのに枯れずにたくさん実がつくことを教えてもらって。それで、枝を2,3本持ち帰らせてもらったんです。ただ、その農園の名前が分からなくて(笑)。親父に聞いておけばよかったなって今でも思うよ」
当時、「土壌の性質と冷涼な気候から、ヨーロッパ系品種は一切育たない」と言われていた塩尻。ゆえに、寒さに強く生食も兼ねたアメリカ系品種が広く栽培されていました。しかし、土壌条件がよく似た山形で育つのなら….!と、ヨーロッパ系品種であるメルローの枝を台木に接いで、幹雄さんは大切に育てました。
「そしたらうまく実がついたんです」
幾多の困難を乗り越えて世界に羽ばたく!
2年目には一房、二房と実をつけ、つまんで食べるとコンコードなどとは全く違う独特な香りがしたそう。その後、醸造したワインを五一さんと共に飲んで「これはいいかもしれないぞ」とメルローの可能性を確信していくことになります。
が、しかし!
順調だった矢先、「根頭がんしゅ病」という病害虫や凍害が相次いで発生。今まで元気だった木が、3年目に急に枯れてしまう事態に陥りました。根頭がんしゅ病は、当時まだあまり知られていない木の病気で、農業試験場の先生方でもよく分からなかったそう。その後幹雄さんは、凍害が発病の誘因となることを知り、藁を棚部まで手作業で巻きつけたりと、試行錯誤をしながら栽培方法の改良を重ねます。
「当時、藁もなかなか手に入らなくてね、価格も高かったんです。でも枯らしちゃ困ると思って必死にやりましたよ」
「台木に使っていたアメリカ系品種は免疫があるため根頭がんしゅ病にならないという事実を活用して、それを伸ばして高所に接いだらどうだろうと思ってやってみたんです。そしたらこれが大成功。高接ぎした木は1本も枯れなかった!!」
これらの栽培方法を周辺農家に共有したものの、接ぎ木の活着率があまり良くなかったことからメルローの栽培に消極的な農家も増えていったそう。しかし、幹雄さんは諦めませんでした。
次から次へと困難に襲われるなか、一筋の光がさします。それが、温暖化です。
1985(昭和60)年頃から始まった温暖化により凍害が出なくなり、メルローの栽培が安定。さらに、1989(平成元)年には、桔梗ヶ原産メルローを使ってシャトー・メルシャンが作ったワイン「シャトー・メルシャン信州桔梗ヶ原メルロー1985」が、リュブリアーナ国際ワインコンクールで大金賞を受賞!!!!
「とてつもない賞を獲っちゃったの。それを聞いて、私も自分が獲ったくらい本当にうれしかった」
シャトー・メルシャンと幹雄さん
話は少し遡ります。
戦後、砂糖が輸入できるようになってからは、砂糖と香料、色素、アルコールを使って作る人工的な甘口ワイン「甘味ブドウ酒」が一世を風靡しました。しかし、およそ20年後には売れなくなり、原料であったコンコードとナイアガラの栽培が危機に瀕します。
そこで、大黒葡萄酒(現・シャトー・メルシャン)の工場長だった浅井昭吾氏に助言したのが、すでにメルローの栽培に着手していた幹雄さんでした。
「浅井さんにメルローを勧めたら『これはいい』と。大黒葡萄酒傘下の農家に、メルローへの改植を呼びかけたんです。賛同した農家に計6000本ほどを植え、塩尻が一挙にメルローの産地になっちゃった。試験栽培など無しにいきなり6000本も植えたって聞いたから困ったなぁとも思ったけど、もう植えちゃったっていうからね。栽培指導をさせてもらいました」
1本の木から始まったメルローが、世界の扉を開く──。たゆまぬ努力と諦めない信念によって実現した、そんなストーリーに胸が熱くなりました。まるで『プロジェクトX〜挑戦者たち〜』を見ているみたいだ!!
7ヘクタールの農園は見渡す限りブドウだらけ!
現在、ワイナリーに併設された7ヘクタールほどの自社農園では、メルローをはじめシャルドネやシラーなどのワイン専用品種のブドウが15種ほど栽培されています。農園は、見学自由ですよ! ぜひ遊びに行ってみてほしい!
ひたむきにブドウと向き合い、技術や知識を決してひとり占めせず、共有して共生していこうとされている姿勢に、もはや学ぶことしかありませんでした。貴重なお話を聞かせていただき、本当にありがとうございました! また来ます!!
五一ワインもイベントで飲める
11月9日に目黒で開催される塩尻ワインイベント「SHIOJIRI GRAND WINE PARTY 2019」では五一ワインも並びます。塩尻にメルローが生まれた背景を知った上で味わうワインはまた格別です。他にも15ワイナリー+1高校、約90種の塩尻ワインを一度に味わえるので、是非会場へ足を運んでみてはいかがでしょうか?
「SHIOJIRI GRAND WINE PARTY 2019」公式サイト
五一わいん(林農園)
住所/長野県塩尻市宗賀1298-170
TEl/0263-52-0059(事務所)・0263-52-7911(売店)
営業時間/8:30〜17:00
定休日/土・日曜、祝祭日、年末年始(事務所)・お盆、年末年始(売店)
備考/工場内の見学はできないが、ブドウ畑は自由に見学することができる
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